奇跡の出会い(東京干潟編)
干潟でカニの撮影をしていた私は、偶然通りかかった吉田さんに声をかけられ、「蟹の惑星」の撮影がスタートしました。
では「東京干潟」の主人公、シジミ獲りのおじいさんとはどうやって知り会ったのでしょうか。
忘れもしません、吉田さんから初めて声をかけられた翌日のことです。
干潟に入るにはまず土手を降りて、そこから茂みを抜けていきますが、その中に数軒の小屋がありホームレスの人たちが住んでいます。
いつものように干潟に降りようとしたら、そのうちの一軒からおじいさんが出てきてこう言いました。
「あんた、環境省の人?」
一瞬何が何だかわかりませんでした。
まずホームレスの人に突然声をかけられたことに驚き、ちょっと怖そうな風貌に圧倒され(おじいさんなのに腕の筋肉がもの凄い!)、そしてそんな方の口からいきなり環境省というワードが出てきたのにも面喰いました。
聞けばおじいさんは、干潟でシジミを獲って生活をしており、最近他の人たちの乱獲がひどくてシジミが激減しているので、どうにかしてほしいとのことでした。
干潟にカメラを向けている私を環境調査にきた役人とカン違いしたのです。
潮干狩りをしている人たちをあちこちで見かけてはいましたが、あれはシジミを獲っているのかとその時わかりました。
そして言われてみれば、春に近づくに連れ、その人数も増えているような気もしました。
こちらの事情を話したうえで、改めておじいさんの話を聞くと、シジミに関する知識が豊富で、人柄も気さくで優しい方だと分かってきました。
さらに家の周りにたくさんの捨て猫がいて、おじいさんが一人で世話をしていることも知りました。
この人を撮りたい!私は咄嗟にそう思いました。
この人の生活を追いながら、自然と人間の結びつきを捉えてみたい、何よりこの人のことを知りたいと思いました。
そこで多摩川のシジミ乱獲問題とペット遺棄について取材するという名目でおじいさんに撮影を申し込み、交流が始まりました。
つまり、2本の映画とも偶然向こうからきっかけを作ってくれたのです。
干潟へ何のあてもなく、ただひたすら通い続けた結果、こんな出会いが待ち受けていたのです。
しかも2日連続でそんなことが起こった。
大げさに言えばこれは奇跡です。
自分はこの二人に選ばれたのだ、この映画を撮ることは運命なのだと、すっかり信じ込んでしまいました。
その夜は興奮して寝付けませんでした。
そしていよいよ本格的な映画の撮影がスタートするわけですが、これがとても独特な撮影となっていきます。
それについてはまた明日書くことにします。
村上浩康(製作・監督)